失った干潟に 野生の鳥を 人の力で呼び戻す

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戦前の東京湾は、有数の野鳥の飛来地でした。さらに上質の海苔の産地としても有名でした。人と野生生物が、共存しあい豊かな生態系を造っていたのです。産物の宝庫である東京湾を埋め立てるようになったのは昭和四十年代の始めから。この野鳥公園が位 置する、大井埋め立て地もその頃に自然の干潟や湿地、アシ原を失っています。

殺伐とした荒れ地のような場所でしたが、埋め立てから五~六年後に野生の鳥たちが戻ってきました。草一本生えていなかった土地に驚くほどの緑が蘇り、地盤沈下や陥没の激しい場所には、雨水がたまり、浅い池までできていたのです。そこに数千の渡り鳥が自分たちの居場所を求め、生息し始めていました。
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ビジターセンターの望遠鏡で覗いたセイタカシギの羽繕い

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カワウの遊ぶ汽水池

昭和五十年、これを見た市民らがこの場所を野鳥の保護区にしてほしいと、都に請願書を提出。市民団体の努力が実を結び、日本初、野鳥のための公園『大井第7ふ頭公園』が昭和五十三年に約3ヘクタールの規模でオープンしました。その後市民団体は、数の多い野鳥たちの生息地としては狭すぎると、再び公園の拡大運動を広げ、現在の26.3ヘクタールの面 積を都から確保し、より充実した野鳥のための『東京港野鳥公園』が開園したのです。

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つまりこの公園は見方をかえれば、人間が壊した野生生物の棲み家を人間がもとの主人に返しただけの場所とも言えるのです。

自然を人の手で回復させようとすると、膨大な資金と物理的なエネルギーを要します。もっと重要なのが、多種多様な生物たちと共存し、豊かな生態系を次世代に伝えようとする、人の強い心です。その成功例の貴重な記念の地とも言えるでしょう。

手後れになる前に自然は残しておきたい。失ったものの大きさに気付いてからでは遅すぎるのですから。

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干潟のトビハゼ。ビジターセンタの下で干潟が観察できる

東京港野鳥公園

ここには汽水池、淡水池があり、それぞれの池に来る水辺の鳥は、種類が違います。実のなる木がふんだんにあるために、森に来るカケスなど山野の鳥もいて、どの季節に訪れても鳥たちでにぎやかです。その数191種(平成元年四月の新オープン時から平成十一年三月までに確認されたもの)。植生についても、鳥や昆虫たちの利用を中心に考えているので、ビオトープ・ガーデン造りの参考になるサンプル植物で一杯です。埋め立て地に蘇ったまさに鳥のサンクチュアリです。とは言うものの、やはりもともとは埋め立て地。モグラは棲んでいません。上手に回復させたように見えても、なかなか本来あったような自然に戻すことは出来ません。いかに、残された環境を大事に守ってゆくことが必要なのかを、学ばせてくれる場所でもあります。

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土嚢を積んで、草木を生やしている。ビジターセンターは遠目に見ると小さな丘にしか見えない

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水池で泳ぐカルガモ。
人工的に作られた淡水池には、防水のためのビニルシートが埋め込まれている

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沼地や小川、水田、畑、草地などが再現されているエリア。まるで田舎道を散歩しているようだ。もちろん、ヒマワリは小鳥たちのために植えてある。この日もカワラヒワが、まだ食べられないかとチェックに来ていた

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都内ではすでに絶滅したメダカ。どこかほかの地域から持ってくるときは、慎重に。地方ごとの遺伝的な多様性を混乱させかねない。ただ、持ってきても、その地方にあった生物学的な歴史的背景までは再現できないのだ

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水田のエリアではトンボたちの繁殖も観察できる。竿の先に止まってなわばりを見張っているのは、ノシメトンボ 。このごろでは水質汚染に強いコシアキトンボが増えてきているそうだ