先代様の庭木も生かそう

ガーデニングブーム以来、割に多い相談の一つに、庭を改造したいのだがマツやウメの古木を切るわけに行かないというものがある。よく聞いてみると、実はそれらの木が気に入らないわけではなく、家人の様々な思い入れをかたくなに拒む日本庭園というものに辟易していることが多いみたいなのだ。

海外から見たらエキゾシティズムやジャポニズムを象徴するようなこれらの木は、あちらではひときわ魅力的に使われていることが多い。フランスやイギリスの映画で屋外のシーンになると、まず目に付くのがヤツデとアオキ。はっとさせられるフォルムの生かし方、自由な扱い。

爪の垢を少しいただいて、 実をたわわに付けた自然樹形の低木や、ハーブや宿根草、それに様々な斑入りのグランドカバーを加えていくと、なかなか楽しい和風ビオトープガーデンになるんじゃないかなあ。だって、日本庭園に使われている樹木の多くは、元々その地方に生えていた種類がほとんど。野鳥や虫たちが利用し慣れた木たちは、ビオトープ・ガーデンの素材にはぴったりのはずなんだものね。

鳥たちのためだけでなく

もし日当たりが悪くないのなら、なんといってもおすすめの木はヤマボウシ。花も紅葉も美しく、上品な味の実は果 実酒にしたり、そのままでもおいしくいただけます。半分は鳥たちのために残しておいてあげましょう。

ウメやモモ、カキ、ヒメリンゴなどの果樹を植えておけばオナガ、ムクドリ、メジロ、ウグイス、ヒヨドリなど、いろんな鳥たちがやってきます。そういえば、サクラの蜜を吸うメジロやスズメ、ヒヨドリ、ワカケホンセイインコが都内のあちこちでみられるようになりました。お花見のときに気がついたかもしれませんね。花の後になる小さなサクランボもムクドリやヒヨドリなどの好物です。マツやエゴの木、コナラなどを植えておくとナッツ類が好きなシジュウカラやヤマガラなどがやってきます。

斑入りのヤツデやアオキ、キヅタはイギリスでも人気の高い植物ですが、たわわにつける実は小鳥たちにも人気があります。

庭の植え込みには、鳥たちに人気のムラサキシキブや、ガマズミ、ウグイスカグラ、ウメモドキなどの低木で茂みを作りましょう。

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和風ぽけ・び!
「私のポケットビオトープ」展から
東京ガス銀座ポケットパーク’98/5/21~6/30

日当たりがあまり良くないからって、あきらめることはありません。森の中に生えている植物を上手に組み合わせましょう。明るい色の下草や斑入りの植物を多く植えれば、軽やかな印象にまとまります。

日本庭園の下生えには、センリョウやマンリョウ、ヤブコウジ、ヤブラン、ジャノヒゲ、キチジョウソウなどがよく植えられますが、これらの植物は、餌の不足する冬場に実をつける貴重な植物でもあるのです。

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都内に多い日陰の小さな庭を想定した和風ぽけ・び!。外国の植物や斑入りを加えて、明るく軽やかな感じに仕上げる。手前中央は石臼を利用した餌台。
キンメイチク、ベニカナメ、シラカシ、サザンカ、ナワシログミ、覆輪アオキ、イヌツゲ、サンショウ、センリョウ、コトネアスター、フイリツルマサキ、コクチナシ、ムベ、ハツユキカズラ、ヤブコウジ、覆輪ギボウシ、マツモトセンノウ、カサブランカ、アスチルベ、クリスマスローズ、ショウブ、ミツバ、ラミウム、斑入りカキドオシ、斑入りアイビー、エレンダニカ、ブライダルベールなど。同「私のポケットビオトープ」展から

鳥たちは新築の白い壁をこわがります。ムベやアケビ、ツルウメモドキ、スイカズラなどの蔓で壁を隠しましょう。保温効果 で冷暖房費も節約できるはず。

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ツバキの花弁の傷は、メジロやヒヨドリが蜜を吸いに来たときに出来たもの。餌台を作るのも良いけれど、サザンカや乙女ツバキなどのように蜜をたくさん出す木を植えておく方が、鳥たちには親切かも

生け垣を作ろう

メジロやウグイスはササ薮や茂みが大好き、隠れ家にしたり巣を作ったりします。ツバキやサザンカの蜜は、メジロやヒヨドリの好物です。サンザシは、花も実も美しく、健胃、鎮痛効果 のある実はジャムにもできます。ネズミモチは鳥たちが全部食べてしまう前に陰干しにして煎じて飲みましょう、白髪が減ります。ナツグミやマサキ、ニシキギ、ヒサカキ、サンゴジュなどの他に、フェイジョアやブルーベリーなど、鳥たちの好きな実のなる木も使って生け垣や混ぜ垣を作りましょう。区によっては補助金もでます。

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ネズミモチの生け垣。 黒い実は鳥たちに人気がある。生け垣は身近な生き物たちの食料源や隠れ家になるだけでなく、移動経路としての機能も見逃せない。個人の庭にビオトープ・ガーデンの機能を持たせるなら、生け垣や街路樹はそれらをつなぐコリドー(生物回廊)の役目を果 たすはずだ。区によっては環境回復の重要な足がかりとして助成金を出すところもある。ブロック塀のように地震で崩れる心配も無いので、お勧め

コリドー(生態学的回廊)

せっかく町中にビオトープ・ガーデンを作っても、そこにたどり着ける生き物がいないのでは、ただのガーデニングと変わりません。こんなとき近所の庭や生け垣、街路樹は生き物たちがやってくるための大切な通 り道になります。生き物たちの移動経路をコリドーと呼び、環境先進国ドイツなどではビオトープを結ぶために道路脇の植え込みを生き物たちの移動のためにわざわざ整備したりしています。イギリスではヘッジローと呼ばれる牧場の生け垣が同様な機能を持つことに注目して、都市に自然保護区を造るときヘッジローの技法を応用した茂みの造成を行っており、それが野生生物の生息や移動に役立っているそうです。

庭に生け垣を作るとき、なるべく色んな種類からなる混ぜ垣を作ることをお勧めします。四季折々の花や木の実が、きっとさまざまなお客様を呼び寄せてくれるに違いありません。生け垣の根本にアイビーやランタナ、アガパンサスなどのグランドカバープランツを植えておくと、羽のない生き物たちにとっても利用しやすい環境が作られるはずです。

虫たちのためだけでなく

ヤマユリやカノコユリは木漏れ日の中で大きな花を付け、ハツユキカズラやラミウム、ギボウシは小さな筒型の蜜たっぷりの花を咲かせて、クロアゲハやカラスアゲハのような大きなチョウを誘います。

サンショウやナツミカン、キンカンにはアゲハの仲間が卵を産みにきます。

ハチドリみたいなオオスカシバが卵を産みにくるクチナシには、草木染めやキントンなどの色づけに使われる黄色い実がなり、メジロたちもついばみに来ます。

ニワトコやクワ、イチジクの髄にはカミキリ虫の幼虫が住み、実はメジロやヒヨドリたちの好物です。

ケヤキ、エノキ、コナラ、クヌギはいろんな甲虫たちのすみかにもなります。ケヤキ一本が50種あまりの昆虫を養っているという研究も。区によっては保存樹木の補助金や保険もあります。

落ち葉がつもったままでもいい場所を作りましょう。落ち葉はやがて腐葉土になり木々を育て、小動物のすみかを提供し、庭の生態系を豊かにします。落ち葉の下に隠れているミミズや虫を探しにムクドリやジョウビタキ、ヤマバトたちがやってくるかも。

明治神宮の森は、落ち葉を大事にすることで巧みに再生された森だったって、ご存じでしたか。あちこちの公園の自然が貧弱なのは、掃除のしすぎも原因の一つだったのです。

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ヤマユリやカノコユリをもとに改良したカサブランカやルレーブなどといったオリエンタルハイブリッド系と呼ばれるユリたちは明るい林の中のような半日陰を好みます

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グランドカバープランツで植え込みを縁取って、落ち葉をためる工夫を。
 様々な生物が住めるようになり、土の状態も改善される。落ち葉はゴミではありません 。生態系回復の鍵を握る大切な財産と言ってもいいのでは?と思います。落ち葉のエリアに色んな宿根草や球根植物を植えておけば、あまり手をかけることなく一年中花を楽しむことも出来ます。
しんきんVISA はれ予報 特集「ビオトープ・ガーデンのすすめ」2000/3 から