かしこく残して、ローメンテナンスの庭に
代々木公園での選択的除草のやり方や成果を見ていくことにしましょう。
選択的除草のポイント。
- 抜き取りの優先順位を決めて作業をしよう。
- ラクして無料で、美しいグラウンドカバーがあなたのものに。
- 選択的に草取りするだけで、ビオトープ機能が生まれる。
あんまり時間がないときには、繁殖力の強いのやでかくなって困る帰化植物から抜いていきましょう。在来種のグラウンドカバーがある庭は、それだけでもう立派なビオトープです。
何をいつ抜くか?
かしこく残して、ローメンテナンスの庭に
冬から春にかけて生長するロゼットを抜くのが効果的な植物の例を、いくつか挙げてみましょうか。
たとえばこれ。ハルジオンのロゼットです。
一見すると花の時期と全然違った形なので、図鑑と見比べても意外に解らなかったりするのがこの冬場の姿。
ともすると、馴れない人はプリムラなんかと間違えたりその他の秋まきの園芸植物と混同することもしばしば。紛らわしい苗が植えてあるところは、後回しにした方が良いかもしれません。
元々園芸用にと日本に持ち込まれた花で、よく見るとなかなか愛らしいんですが、いかんせんその爆発的繁殖力がねぇ 。気の早い株は3月頃から咲き始めますから、早めに抜くこと。
オオアレチノギク。さっきのハルジオンよりも細長い葉っぱで、もっと細かい毛に覆われています。
これも1株で何万もの種を飛ばしますから、とにかく実を結ばないうちに抜かないと、翌年はもっとすごい草むらになってしまいます。夏頃から花を着け始めますから、抜くなら梅雨時ぐらいまででしょうか。
この艶やかな葉っぱは、セイタカアワダチソウ。触ってみると、葉っぱの表面がザラザラしています。
途中で切れてしまったけれど、この長い地下茎を出来るだけていねいに抜き取らないと、地下に残った地下茎からまたまた新しい芽が出てきます。
秋咲きだからって、のんびり夏頃まで残しておくと、この地下茎を沢山伸ばして小規模な群落を造り始めてしまいます。
しかも、この地下茎からは、他の植物の種子発芽を抑制する物質が放出されます(アレロパシー)。
梅雨時の晴れ間に抜くのが意外に楽ちんだったので、寒いときの作業が苦手な人にはお薦めかな。
選択的除草のワークショップの時には、草カキを持ってない人はいらなくなった食卓用のフォークで抜いてもらいました。
ロゼットの根本にフォークを差し込んで、ぐいっと持ち上げると綺麗に抜けるんですよ。
- ロゼット状の根生葉
ポイントをまとめると
- 夏から秋に咲くセイタカアワダチソウやヒメムカシヨモギ、オオアレチノギクなどは、梅雨の終わり頃までには抜いておきましょう
- 春咲きのハルジオンは、遅くとも3月ぐらいまでには抜いた方が無難
さて、次は、春に芽を出して夏から秋にかけて花を着ける連中を見てみましょう。この連中も、花を咲かせる前に抜き取ることが肝心です。
いずれも1年草なので、種子を着ける前に抜き取ってしまえば、翌年からは姿を消します。
アワユキセンダングサは、可愛い花を着けチョウも良く訪れるのでつい残しておこうかななんて思うこともありますが、かなり注意しないとあっという間に通路沿いに蔓延してしまったりするので、注意が必要です。
草取り作業の時に、種がみんなの体にくっついて運ばれちゃうんですよね。
台湾の、1日の入山者数を制限しているようなビオトープで、散策路沿いにこれがビッシリ生えていて沢山のチョウを呼び寄せていましたが、おかげで保護対象になっている現地植物の花は閑古鳥が鳴いていました。
帰化植物は、そんな風に往々にして在来種の生える場所だけでなく、訪花昆虫まで奪ってしまう危険性も持ち合わせて居るんですよ。
オオブタクサは、特にアレロパシー作用は知られていないにもかかわらずこれだけの大群落をつくり、他の植物が生えられなくしてしまう。高さ3mにもなって密生するので、茂みの中の方は日照不足で何も生長できなくなってしまうのだ。
あんまり大きくなってからでは抜き取るのも捨てるのも大変なので、梅雨時ぐらいまでには何とかしたい植物だ。1m以下の大きさなら、根っこもそんなに発達していないので、案外簡単に抜き取れる。
選択的除草の初年度は、前年にまき散らされた種子がダラダラと発芽してくるので、晩春から初秋あたりまで、見落とさないように何度か抜き取り作業をする方が良いですね。
とにかく、種を着ける前に抜くこと。そうすれば翌年からはピタリと姿を消しますよ。
- オオブタクサ
- ブタクサハムシ
アレチウリもあっという間に覆いつくして、他に何も生長できなくしてしまう植物です。実はトゲだらけで痛いので、とにかく早めに抜き取ること。
ポイントをまとめると
- 春に芽を出し始めるこの連中は、とにかくダラダラと発芽してくるので油断しないこと
- 種を着ける前に抜き取ることを徹底すれば、1年草なので撲滅は意外に簡単
今まで帰化植物に圧倒され、なりをひそめていた在来種も、選択的除草のおかげで勢いを取り返してきました。
手始めに「花の小道」の春花壇を眺めてみましょうか。
ふんわりと地面を覆う浅黄色のベール。ワスレナグサの仲間の、キュウリグサやハナイバナのグラウンドカバーです。
- キュウリグサ
- キュウリグサ 花のアップ
- ハナイバナ
林床のちょっと暗い場所には、チヂミザサのマットが広がっています。葉っぱの縁に軽くフリルが着いているのが特徴で、なかなか愛らしいでしょう。
この頃の花屋さんでは、外国産の近縁種がグリーンカールとか言う名前で売られるようになりました。
わざわざ高いお金を出してまでそんな物を買ってこなくても、日本の野生種にこんなステキなグラウンドカバー素材があるんですから、もっと積極的に利用したいものですね。
日当たりの良い少し湿ったところなら、コブナグサやササガヤなんかがお薦めです。
- チヂミザサ
- チヂミザサ 花のアップ
- チヂミザサの群落
これは、ムラサキサギゴケのマット。雨の後、水たまりになるようなところに群落が発達します。
- ムラサキサギゴケ
- ムラサキサギゴケ
- 小型多年生ほふく植物ムラサキサギゴケによる強害雑草の抑制
近くで見ると、こんなに凝ったデザインの花なんです。茶色の模様(ネクターガイド)が、虫たちにミツのありかを教えています。
ガーデニング素材として昔から使われていて、買うと結構するんだけど、意外に街中の庭の片隅にも細々と野生品が生き残ってたりします。競争相手になる帰化植物を取り除いてあげると、こんなに盛り返してきて美しい花をたくさん着けてくれるんですよ。
芝生よりも遙かにデリケートな表情を楽しませてくれるスズメノカタビラのグラウンドカバーに混じって、ムラサキサギゴケが増え始めました。むき出しだった地面がふんわりと覆われて安定し、湿度もほどよく保たれるようになったからでしょうか。
初夏になるとスズメノカタビラが沢山の種を実らせて、巣立ちしたばかりの子スズメたちが背伸びしながらついばむ姿も楽しめます。
麦秋の頃のイネ科雑草の種子は、若い野鳥たちの貴重な食料源。
むやみに刈り取らないで、気にならないところには残しておいてあげましょうね。
ヘラオオバコは、葉っぱも穂の形もカワイイからと、このエリアではわざと残しています。一度安定した在来種のグラウンドカバーが発達してしまうと、後から帰化植物の割り込む隙が無くなります。
多少種が飛んだところで、以前のように蔓延する心配がありませんからね。だからこそ、こんな遊びも余裕で楽しめるわけ。
蜜源としてハルジオンなんかもまとめて残して、花のかわいらしさを楽しんでいるエリアだってあるんですよ。
イヌタデは、葉っぱに独特なVサインが着いています。
夏のさなかに一度刈り戻してあげたり時々踏みつけたりしておくと、こんなにステキなマット状に仕上がります。冬場にはこの種子も、野鳥たちの糧になります。
日向で雨の後で水たまりになるようなところに出来たグラウンドカバー。上から見ると、チドメグサが中心になってイヌタデやカタバミなども混じり、なかなかの密度のマット状に茂っているのがわかります。
こちらは半日陰に出来たグラウンドカバー。
チヂミザサとイヌタデがメインで、右側中央のまるい葉はヤブタバコ。
右端に有る背の高いのは、カクトラノオ。
手前のマットは、日本の野生植物(在来種)の群落です。オオブタクサぐらいしかなかった頃とは比べものになりません。これから四季折々、野の花が楽しめます。
いわゆるビオトープ工事だと、こういった野生種のほとんどをポット苗やらプラグ苗で調達したりして他地域からの植物を持ち込んでしまい、地域ごとの遺伝的多様性を混乱させてしまいますが、「花の小道」のグラウンドカバーは全て代々木公園内に生き残っていた在来種を彼ら自身の回復力に手を貸す形で復活させたものなんですよ。
そう言う点では、見かけだけの自然回復を目指した他のビオトープより遙かに優れた成果をもたらしていると言えます。
さて次は、在来種のグラウンドカバーをいかにしてさりげなく、しかも美しく見栄え良く花壇に組み込んでいくか、そのコツを紹介しましょう。