それは、園芸種と日本の在来種で造るメドーガーデン
さりげなく、身近な自然と暮らす。
代々木公園での選択的除草で育てられたグラウンドがバーの、上手な利用法を見ていくことにしましょう。
選択的除草のポイント。
- 通路や花壇の縁などの境界を、ハッキリと際だたせるように草を残す。
- 雑草に負けないよう、膝丈以上の園芸種を中心に植栽する。
- 小さな一角でも高低差が入れ子になる構造に仕上げ、入り組んだ環境を効果的に造り出して、色んな生き物が利用しやすくする
あれもこれも残したいってあんまり欲張ると、どこもかしこも草ボウボウになって全部刈り取られちゃうかも知れません。
多様な環境が入れ子(フラクタル状)になるように、背の高い群落や背の低い群落、裸地などの境界がウネウネと入り組んだデザインになるように工夫しましょう。
もちろん見た目も美しくね。w
共存の庭、その組み立て方とメンテナンスのポイント
メリハリが大切、ローメンテナンスの庭
さて、自然回復一辺倒だと、花壇や庭園としての美観を維持するのが大変なのでは?と言う心配もあるでしょうね。
実はいくつかの簡単なルールに沿って手入れするだけで、「花の小道」の美観は安定した方向へと導かれているのです。
もちろん、メリハリをつける事を忘れてはいけません。エリア毎にその環境が異なっていますから、それぞれの場所に適した植物層が回復するのを手助けするように注意しながら手入れする必要はあります。でもそれは、林床に残されている在来種は抜き取らないと言う事を実行するだけで実現できるのです。
上の写真を見てもらうと、小道のメンテナンス上の注意点をいくつか知ることが出来るでしょう。
ちょっとだけポイントをまとめてみましょう。
- 通路や花壇の縁などの境界を、ハッキリと際だたせるように草を残す。
- 雑草に負けないよう、膝丈以上の園芸種を中心に植栽する。
- 林床に残されている在来種は抜き取らない。
TPOで、エリア毎に残されている植物層の特徴をより強調するような管理もしています。それは、見た目のメリハリをつけて飽きさせないという景観的な効果を持っているほかに、そうでないと小道エリア全体の環境に多様性を持たせられなくなってしまい、返ってトータルのビオトープ機能が低下してしまうからでもあります。
もう少し違う言い方をしてみましょう。
僕たちは、たとえばターシャテューダのメドーガーデンを、日本の野生種(在来種)と園芸植物で組み立てようとしているんです。
園芸種も野生種も、こぼれ種で自由に増えていき、それでも全体の調和を保っている。
そんな庭を目指しているんです。
これは、ミヤマシラスゲとギボウシの花壇。
このエリアに元々残されていたのか、それとも花の苗と一緒に混入して持ち込まれたのか、 いつの間にか増えてきたミヤマシラスゲを、グリーン素材として利用しています。お互いが引き立つように、ギボウシの中に進出してきたミヤマシラスゲを、時々抜き取るだけ。
- ミヤマシラスゲ
- ミヤマシラスゲのレッドデータブック全国マップ
日本庭園でもよく使われるヤブミョウガが鳥の糞から芽生えてきました。業者の草刈りで刈られないように囲いをして守った甲斐あって、清楚な花を着けてくれました。秋から冬にかけてメタリックブルーの実が楽しめます 。
- ヤブミョウガ
ヤバネススキとツユクサの花壇 。小道の両脇にはオオバコとエノコログサが残してあります。
小道の縁をクッキリと際だたせて、「ここは草を取ってないんじゃなくて積極的に残しているんだよ」と知らせています。
こんなちょっとしたメリハリをつけるだけで、雑草たちもちゃんとグラウンドカバーの役割を果たしているんだなって事が伝わります。
おかげで、「草ボウボウで手入れしてないのか?さっさと刈り取れ!」というような、野暮な親切な注意をする人も現れません。
ここはペニセタムやヤバネススキとエノコログサを共存させているグラスガーデンエリア。カラーリーフを合わせると、とってもそれらしい雰囲気に。
通路の向こうの花壇には、真ん中にセイバンモロコシを残して背の高いグリーン素材として利用しています。
セイバンモロコシも、この頃では切り花として出荷されたりしてるんですよ。
そうそう 、もう一つのポイントを。
- エノコログサやキンエノコロ、チカラシバやススキなどの膝丈ぐらいから身長ほどになるグラス系を残すときは、通路から50cm〜1mほど奥まったところからにし、通路脇はグラウンドカバー系の背の低い群落にする
そうすることで閉塞感をなくし、開放的で自然な表情を演出できます。
- 日本の美を取り戻そう!
- ペニセタム‘ギンギツネ’
- ペニセタム・セタケウム
- パープルファウンテングラス
- チカラシバ
ここは、エノコログサとハーブ中心のメドーガーデン。
メリハリをつけるために、身長ほどもあるサルビア・グラニティカ(メドーセージ)の茂みもあります。
日陰でも冬以外は花を咲かせ続けてくれる、丈夫な優れものです。
ちょっと目をはなしたら、杭の脇の草を抜かれてしまいました。
こんな無防備な裸の地面が露出すると、またまた帰化植物の温床になってしまう 。新しいボランティアさんへの、連絡漏れが原因だった様子。
まとまった大きさのカゼクサ群落です。何とものどかな眺めでしょう?
これだけの規模の群落は、都内ではもちろん、地方都市周辺や農耕地でも除草剤の普及のため、まず見られません。貴重なスポットになってしまいました。
カゼクサの小道を抜けると、小さなグラスガーデンが 。
こんな小さな一角でも、高低差が入れ子になる構造(フラクタル状)に仕上げられているのも、入り組んだ環境を効果的に造り出して、色んな生き物が利用しやすくなるポイントです。
褐色のカレックスが印象的です。
その他はシロタエギクとかブルーサルビアなんて、意外に普通なんですが、全体の印象がこれだけ強くなるのはやっぱりグラスの存在感ゆえ?
イングリッシュボーダーのテクニックをさりげなく応用して、手前にスクリーン効果をもたらす少し背の高いカレックスブキャナニーを植えたのが、良い効果を発揮しています。
それと、裸の地面が出ていないってのも、落ち着いた雰囲気になって良いですね。
背の高いフェンネルもキアゲハの食草になり、よりいっそうこの花壇全体のビオトープ機能を高めています。
これで冬枯れの姿も面白いものができると、ローメンテナンス花壇冥利に尽きるというもの。
ここでまたポイントを2つ。
- 斑入りなどカラーリーフをふんだんに使うと、花の少ない時期でも楽しめます
- 食草になる植物は、通路よりにではなく、やや奥まったところに植えること
公園は色んな人が利用しますから、イモムシが苦手な人対策として、食草は通路側に面して植えないようにしましょう。
ホントに興味のある人たちだけが、発見の喜びを噛みしめればいいのですから。
こうすることで、「気持ちの悪い虫がいた!消毒しろ!」などと言う心ない親切なご注意を受けることもなくなりますA(^_^;
ところで、もしこの花壇の植物が、園芸入門書なんかに良く紹介されてるように、手前を低く、だんだん奥に行くにしたがって背の高い植物をと、お行儀良く植えられていたとしたら、どうだったでしょうか。
きっと恐ろしく奥行き感のない平板な印象で、花壇脇を歩いても表情の変化が楽しめない、花壇の中をのぞき込んで色々発見する喜びのまるでない、ありきたりな花壇になっていたでしょう。
それは同時に日当たりや風通しなどの環境の変化や微気象の多様性をも排除してしまい、そこに生息できる生物を減らしてしまったり、隠れ家となる窪みを無くしてしまったり、背の高い株の根元や密生した部分に日照不足や蒸れを誘発して病害が発生しやすい状況を造り出し、きっとムダに手間暇の掛かる花壇が出来上がっていたことでしょう。
- カレックスブキャナニー
- “微気象”とは何ぞや?
- 植物と風の微気侯
このエリアは、開花期の長いルドベキアとガウラがしげり放題。どちらの花も長い期間咲き続け、鬱蒼としてワイルドな印象の花壇です 。
そうそう、ローメンテナンス花壇のもう一つのポイントは、開花期の長い花を要所要所に使うことですね。
こちらは、数年間ほとんど手入れをしていないシェードガーデン。
フイリヤブランやキチジョウソウ、クリスマスローズなどは、生長がゆっくりなので株が暴れず、何年もほったらかしに出来るのが魅力です。
こんなローメンテナンス花壇は、これからのトレンドになるでしょう。
と、言うわけで、最後のポイントはこんな感じ。
- 生長が遅い種類を組み合わせて、メンテナンスフリーの庭を造る
さて、次は、帰化植物などの扱いと庭を利用しにやってくる生き物たちとの関係について、もっと考えてみましょう。