帰化植物は悪者か?

帰化植物(園芸植物)も野生生物たちの命を支える糧になっている事実を見ていき、ただ単に帰化植物を撲滅しようとすることが環境にどんな影響を与えるか考えてみましょう。

選択的除草のポイント。

  • 都心では、帰化植物も大切な食料源

増えすぎは困るけど、時には手加減も必要

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2003/11/12
さて、選択的除草でやり玉に挙げられていたウラジロチチコグサの扱いについて、もう少し考えてみましょう。

いわゆるビオトープ管理では、帰化植物は御法度。必ずと言っていいほどに、撲滅対象にされています。でも、帰化植物は本当に悪者なんでしょうか?

上の写真を見てください。ヒメアカタテハは、なにをしていると思いますか?

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2003/11/12

そう!産卵です。

ここ数年、たとえば渋谷駅前のような都心部でもヒメアカタテハを見かけるようになって不思議に思っていたんです。都心では、ヒメアカタテハの食草になるヨモギもハハコグサもほぼ絶滅状態。都市周辺部からたまたま飛んできたにしてはあまりに頻繁に見かけるようになっているけれど、一体何が起こってるんだろうってね。

でも、これを見て、とっても納得がいったんですよ。都会ならどこでも見られると言っても良いくらいに、普通にはびこっているウラジロチチコグサを食草にするようになったんですね。

それでは、ちょっと考えてみてください。ウラジロチチコグサを都心部から撲滅してしまったら、何が起こると思いますか?

そうですね、せっかく街中でも見られるようになったヒメアカタテハも、いなくなってしまいます。
良かれと思ってした下草取りが、 せっかく都会に戻り始めた野生生物をまたまた追い出してしまうことになるんです。

本来の食草とは違った植物を利用するようになることを、食草転換と言います。実は、食草転換をして都心での生活に適応した昆虫は、まだ他にもいるんですよ。

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2004/10/21

例えばこの子。

ツマグロヒョウモンですね。ツマグロヒョウモンは、最近の温暖化の影響かどんどん北上中です。本来は野生のスミレを食草にしていたんですが、この頃ではパンジーも利用するようになったおかげで、こんな風に街中の花屋さんの店先にまで卵を産みに来るようになりました。

おかげで、以前はタチツボスミレなんかが咲いているような明るい雑木林やあぜ道なんかで繁殖していたんですが、この頃では公園花壇はもちろん、住宅地でもよく見られるようになりましたね。

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2007/4/5

さらに、都市部に帰化しているパピリオナケアという北アメリカ原産のスミレも利用しますから、これからもどんどん都心へと進出してくるんでしょうね。

パピリオナケアは、もともと園芸目的で持ち込まれたのが庭から逃げ出して野生化した帰化植物なんですね。
だから、花もきれいです。代々木公園でも、かなり増えてきました。

で、ここで問題が。
代々木公園内には、少しですがタチツボスミレも生き残っています。そこにこのパピリオナケアがはびこると、まず第一にタチツボスミレがすみかを追われることになってしまいます。

どちらも生育環境が似ていて、しかも帰化植物のパピリオナケアの方がはるかに丈夫なんです。

第二には、 開花期が重なり、花粉を運んでくれる訪花昆虫も横取りしてしまうという点です。

問題点をまとめると

  • 日本の野生種とすみかが同じ帰化植物が入り込むと、たいていの場合、日本の野生種が競争に負けていなくなってしまう
  • 帰化植物は日本の野生種よりもめだつ花を長い期間たくさん咲かせることが多いので、訪花昆虫も横取りされて結実が悪くなる。

つまり、綺麗だからと言って帰化植物をはびこり放題にしておくと、在来の日本の野生種が消えていってしまうんですね。

でもまぁ、これは花壇の花だって同じ効果を持ってるんですけど。

この頃問題になってるのが、ワイルドフラワーとか言って河川敷なんかに花の種をまいたりする緑化法がありますよね。

ちょっと見た目は綺麗で良いんですが、実はこれ、川原で暮らす日本の野生植物にとっては脅威なんですよ。

代々木公園での雑草管理では、 こういった可愛い花を咲かせる帰化植物の扱いってのもきちんと組み込んでいます。

セイバンモロコシとかヘラオオバコなんかもねA(^_^;
パピリオナケアの場合、積極的に増やす場所を何カ所かにまとめて、タチツボスミレとの分布が重ならないようにすれば良いんですよね。そうすればお互いの軋轢が最小限になります。

これは、もちろん他の園芸植物と野生植物との間だでも言えることですね。

と言うわけで簡単にまとめると

  • 園芸植物や帰化植物を利用する場所は、花壇や庭、公園など、できるだけ人の影響を強く受けている環境に限るべきだ
  • 生態的に利用価値のある帰化植物は、庭や花壇の美観を損ねないようにエリアを決めて残す。あるいは、花壇の素材として積極的にデザインに組み込む

と言うことになります。

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2003/4/13

もう少し他の例も見てみましょう。

こちらはセイヨウアブラナで吸蜜する、ツマキチョウのメス。
幼虫の食草は、ハタザオの仲間、イヌガラシ、ナズナ、タネツケバナなどでした。が、最近では都市公園や道路脇の植え込み、川沿いの土手などに野生化しているセイヨウアブラナなどの帰化植物も利用するので、都心近くでも春先に飛んでいるのを見かけるようになりました。

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2006/4/11

雨上がりの庭の片隅で、ツマキチョウが羽を休めていました。
羽をたたんだツマキチョウは、枯葉そっくりでなかなか見つけられません。

このチョウは年に1回だけ羽化する(一化性)ので、1年のほとんどをサナギで過ごしています。だから、頻繁に草刈りされるようなところでは見かけることがありません。
滅多に人の手が入らない、草取りの手が届かない、安定した環境が必要なのです。
街路樹の下の刈り込みの中や民家の生垣の隙間、庭の片隅の植え込みの後ろ。
そんなところがこの子たちの都会暮らしでの待避場所になっているんですね。

都市生活に馴染むには、たとえばスジグロシロチョウのような年4回程度羽化することができる多化性のチョウなどの方が、環境の変化にも柔軟に対応できて有利です。
ツマキチョウは、ほんの片隅にエアポケット的に取り残された空間をうまく使って、都市生活に切り込んできた種類なのかも知れません。

ポイント

  • 一過性の昆虫も暮らせる環境を整えるためには、1年~数年単位で手を加えないでおける空間を維持しておくことが必要

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aosujiageha-2
2003/5/6

ところで、帰化植物を利用するのは、なにもイモムシたちだけに限ったことではありません。
街中の空き地に咲くハルジオンのミツを吸いに来た、アオスジアゲハを見てください。

アオスジアゲハは、 ウツギやネズミモチ、トベラ、シャリンバイ、アベリアのような白い花のミツを好むのですが、都会ではそんな花はどこにでも見つかると言うわけではありません。
そんなとき、どこにでも咲いていて開花期も長いハルジオンやヒメジョオンは、心強い蜜源です。

もし、ハルジオンやヒメジョオンぐらいしか残されていないような地域で、これらの帰化植物を全て抜き去ってしまったとしたらどうなるでしょう?

都心で暮らす、様々な訪花昆虫も一緒に滅ぼしてしまうことになってしまいますよね。

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  •  地上に舞い降りた天使 2003’5’6 

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2006/5/6

もちろん、帰化植物を日々の糧にして、厳しい都心の空間で生き延びている野生生物たちは他にもまだまだいます。

このスズメ君は、東京駅の真正面にある中央分離帯のセイヨウタンポポの種を、一生懸命ついばんでいます。

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2004/11/25

こちらのスズメ君は、不忍池のほとりでセイタカアワダチソウの種をついばんでいます。
カワラヒワやホオジロたちも利用しに来ています。

彼らにとっては、たとえ帰化植物であっても大切な食料源なのです。人間が自然を破壊し尽くした都市環境でさえ、野鳥たちが何とか暮らせるのも、そんな荒れ果てた土地でも生き抜ける(むしろ破壊された環境に好んで住み着く)帰化植物が生えていればこそなんです。

都市化が進んだエリアでは、ほとんどの日本在来の野生種が人の手と帰化植物たちによって滅ぼされてしまっていて、残されている生物相を回復させるにも、肝心の素材が残されていなかったりする事の方が普通です。

そんなとき、アシやガマ、絶滅危惧種などのポット苗を考えなしに他地域から持ち込むのでなく、とりあえずはビオトープ機能の高い園芸植物(食草や蜜源)と帰化植物の上手な利用から始める方が、はるかに残された環境に優しいと言えます。

帰化植物の選択的除草を進めながら、在来の野生種の回復を助け、その地域ではすでに滅んでしまった野生種は食草や蜜源となる園芸種で肩代わりする。
環境を整え、野鳥が来るようになれば、その糞から周辺から持ち込まれた野生植物が芽生えます。

そんな風に管理していけば、他地域から人為的に持ち込まれた日本の野生種による遺伝的攪乱と汚染(バイオハザード)や、分布地域の混乱など、最近のビオトープ造りが引き起こしている新たなタイプの自然破壊の蔓延をも、未然に防げるのではないでしょうか?

参考

  • ビオトープをとりまく諸問題について
  • ビオトープとはなにか
  • 希少淡水魚の保護と水辺ビオトープ
  • 河川管理とビオトープ
  • 生態系に配慮した水辺ビオトープづくりのための集団遺伝子学的研究